Bamberg及び周辺集落をはしごする午後=ドイツビール紀行2006(その12)=

前回の続き>>

Spezial Keller〜美しきビアガーデン〜

バンベルクへの帰りの列車は一時間に一本あるRE(Regional Express/地域快速)。
二階建ての近代的な列車で、前後の車両には自転車積載スペースが確保されている。旧車両とは違い、段差がほとんど無い入口のためにサイクリストに人気がある。

これに乗ってバンベルクに戻った。約束の時間にはまだ早い。
実は、先日行った時にまだ開いていなかった「Spezial Keller」に行くために早く帰ってきたのだ。

駅からのマイン・ドナウ運河に架かる橋を越え、旧市街へ。
さらに旧市街の中心部を抜けて坂の街をテクテクと進む。

シュテファンベルグの坂を登り切るとそこにあるのが「Spezial Keller」。地元の人々は心を込めて「Spezi Keller」と呼んでいる所だ。
まだ開店直後ということもあり、人は少ない。
真ん中のテーブルにいるグループは常連さん達だろう、その中にここの主人も座っている。

 

ラオホビアを楽しむ

「Spezi Keller」。
このビアガーデンに最初に来たのは1998年の事だった。
友人クラウスと一緒に郊外にキャンプをしながら市内の醸造所を巡った旅だったが、この時、道を尋ねた人に薦められたのはこのビアガーデンだ。

市民の誇り、まさにそう表現するのが正しい空間だ。
緑に囲まれた丘の上、春には一面の菜の花畑となり、黄色の絨毯に囲まれることになる。
その向こう、眼下に拡がるのはバンベルクの街並みで、特に夕方の時間帯には数々ある塔に日が当たり、街が赤くなる。
その頃になると、平日であっても夕方の団欒を楽しむ家族連れが歩いてやって来て、ビールを楽しみながら会話に花を咲かせている。

その後何回か来ているが、この日はその中でも一番の天気だ。日の長いドイツの5月。まだまだ青空が拡がっている。

ビールを注文しにカウンターへ行く。他のビアガーデンと同様、ビールはセルフサービスである。
もちろん、この醸造所の看板商品でもある「ラオホビア」を注文。昨年は髪を細かく編み上げていたオジサンが木樽をひねって注いでくれる。
(2020年追記:その後、ずっとこのオジサンとは挨拶を交わす。)

写真左:樽から注がれるラオホビア
写真右:ブロートツァイトと呼ばれる軽食の盛り合わせ

 

Merkendorf〜小さな集落のビアガーデン〜

夕方からは、友人ルディの家族と近所の集落にあるビアガーデンに行く約束なので、バンベルクを早々に離れる。
バンベルクを見下ろす「Spezial Keller」に吸い込まれていく人の流れとは反対方向に駆け下りた。

行き先はルディお気に入りの醸造所のひとつであるBrauerei Hummelで、Memmelsdorfから2キロほど離れた場所にある2軒の醸造所の内の1軒。

ここは何度も行ったことがある醸造所だが、この暖かい時期に来たのは初めてだった。
いつもは何となくどんよりとした雲の下、寂れた集落にある小さなブラウエライ・ガストホフと言った感じだったが、今回は違う。
夕方のひとときをビアガーデンで過ごす集落の人々の、嬉々とした笑顔が満員御礼状態である。

「やぁ、久しぶり。また来てくれたのか!」
次期オーナーのブラウマイスターが僕等の居るテーブルに気が付き、声を掛けてきた。彼とルディの付き合いもかなり長い。
一緒のテーブルに座るルディの家族とも面識があるので、一人一人と言葉を交わしていく。

ビールはヘレス、デュンケル、ラオホといった定番の他、シーズンビールである「ボック」。どうしようかと迷ったが、まずは定番のひとつであるラオホを飲み、次にボックを飲むことにした。
運ばれてきたビールを飲みながら食事のメニューを見る。せっかくだからやはりこの地方の物が食べたい。

「やはりXXが良いだろう」(名前を書き留めたメモはどこかにあるハズ)
それを悟ったルディが、メニューを指さしながら僕に言った。
これはフランケン料理のひとつで、燻製した牛肉のステーキの様な物だ。これにとろみのあるブラウンソースを掛けて食べる。その傍らにはクヌーデルンが置かれているが、この地方のそれはパン屑も一緒に練られており、「Knöß」と呼ばれている。
バンベルク市内と違い観光客というものが居ないため、もちろんそんな解説は一切無いのが逆に嬉しい。
何年か前に来た時も、これを食べた。
「ひと切れか?ふた切れか?」
あの頃は今よりも若干若かったので、ついついふた切れを注文したが、今はちょっと無理だろう。
その事をルディも覚えていて、
「今日はひと切れでいいのか?」
などと笑っている。

5月(ドイツ語でMai=マイ)らしくマイ・ボックを飲みながらみんなでイロイロな話をしている時に、遠くからドドドドというエンジン音が聞こえてきた。ルディの息子、アンドレアスがアメリカンバイクに乗って到着した。
「彼が接近している事は、どこにいても解るんだよ」
とルディは自分と同じ様にライダーである息子のアンドレアスと仲が良い。まぁあのマフラー音ならば誰でも解るのだが。

アンドレアスが合流して再び乾杯。
そんな時、隣にいたグループの何人かが話しかけてきた。

「あのバイクはかなりカスタムしてあるようだが、いつもどこの店でやっているんだい?」
この集落に住む30代半ばのグループらしいが、そのうちの何人かがやはりライダーと言うことだ。
アンドレアスがあれこれと一通り解説を終え
「彼は日本から来たライダーだ」
と僕の事を紹介した。

「へ〜、そうか君は中国人ではなく日本人か。僕のバイクはホンダだぞ」
とバイク談義が始まった。
彼の声が大きかったせいか、バイク好きの人の輪はさらに拡がり、ビアガーデンにいたバイク好きが集まった。

ビアガーデンとは、ビールを飲む場所ではなく、人の交流の場である。この事は間違いない。

 

ちょっと呼ばれてMemmelsdorfへ

Merkendorfのビアガーデンから帰ってくると、Memmelsdorfにある醸造所Drei Kronenのオーナーが電話をくれた。(ルディの携帯に)

ちょっと醸造所を見に来ないか、とのお誘いだった。
ちょっと暗くなりかけていたが、お邪魔することにした。

ここの醸造設備は何度か訪れた事があるが、今回は新しく増築した部分を見せてくれた。

もちろん、途中には何杯かのビールを飲ませてくれ、その都度0.5Lだから段々と気分が良くなってきた。

一通り見終わると場所を店に移して飲み直す。

店には昨日もいた3人組の客がおり、今日も楽しそうにビールを飲んでいる。
そのひとりが近寄ってきて、笑顔で話しかけてきた。

「今日、Coburgでソーセージ食べていたね?」
何と、Coburgで視線を感じていたのだが、彼等もそこに居たのだという。全く気が付かなかった!

「はははは、その通り!」

実はこういう経験は何度かある。
ある日、某醸造所でビールを飲んでいたら
「おまえさん、昨日XX(集落名)のXX(醸造所名)で飲んでいただろ!」
と客に言われたり、
「この辺の醸造所を巡っている日本人だね?噂は聞いたことがある」
と訪れた醸造所で言われたり・・・。

次回へ続く>>