Coburg散策=ドイツビール紀行2006(その11)=

BambergからCoburgへ

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この日はフランケンの中心都市のひとつ、Coburg(コーブルク)に向かう。
ただし、一日完全に自由と言うわけではない。泊めてもらっているRudiの家族と一緒に食事に行く約束をしたので、夕方6時過ぎはMemmelsdorfに帰ってこなければならないのだ。
そう言うと聞こえは悪いが、食事に行く先はMemmelsdorfの隣にある小さな集落Merkendorf。Brauerei Hummelという小さな醸造所だ。過去何度か訪問し、オーナーとも面識がある。よって、とても楽しみ。

 晴天のフランケンを列車は走る。
バンベルクから出発して十数分、温泉が湧いている証拠として街の名の前に「Baden」が付いているBad Staffelssteinを越えたあたりから、両側の丘の上に古い修道院が見え始める。右手に見えるのが修道院Vierzehnheiligen、左手には修道院Kloster Banzだ。
ドイツ中からの巡礼者や観光客が絶えないこのVierzehnheiligenには、かつては修道院直営であった醸造所が今も営業している。以前、ここBad Staffelsteinで列車を降り、坂道をヒーヒー言いながら登ってこの醸造所を訪れたことがある。

今日の列車はこの先Kulmbach方面に向かわず、進路を真北へ取りCoburgへ向かう。
車窓は広大な農地が続き、時々牧場が現れ放牧された牛が寝そべっている。Coburg駅に到着。
地方の小都市の駅といった感じで、数本のホームは地下道で結ばれ、小規模ではあるが売店やカフェも併設された駅舎は風格がある。
この都市は、かつて醸造都市として栄えたが、今はどうだろう。手元の資料には2軒の醸造所が記載されてはいるが、実際にはあるのだろうか。

 

Coburgで空振り!!

ドイツの街らしく駅は街の中心には無い。
もともと城壁だった街に鉄道が引かれた際、多くの街では駅は城壁や堀の外に建てられてた。
旅行者は街の中心までバスやトラムでの移動を強いられるが、幸いにしてこの街は旧市街まで1キロ程度なので、それほどの不便は感じない。
てくてくと歩いて移動する。

まず目指すのは一軒目、Brauerei St,Scheidmantel。
駅から真っ直ぐに伸びるBahnhof Straße(駅前通り)は、歩道と自転車道に別れており、駅に急ぐ自転車の人は歩行者を気にせずに走れるので便利そうだ。

真っ直ぐな道をしばらく進んで醸造所のある住所に到着したが、何だか様子がおかしい。
Gaststette(直営パブ)の扉は閉まり、その正面にある重厚な煉瓦造りの醸造所本体には大きく黄色い看板が貼ってある。
「Verkauf」
・・・英語では「For Sell」

なんと!醸造所は売り出されていたのだ!
醸造所としてではなく、この重厚な建物が売られているのだろうが、ここには醸造所が存在していないことは確かだ。

すぐ横に、なぜかダイビングショップがあったので入ってみる。
突然やって来た東洋人に店員は少々驚きつつ、店の奥から出てきた。
しかし、さすがビール王国フランケンの人だ。僕のTシャツに書かれた「Ein Bier,Bitte(ビールを一杯ください)」に反応し、直ぐに笑顔になった。

「この醸造所ではもうビールは造っていないのですか?」
「そうなんだ。最近閉鎖されてね。今ではKulmbachで造っているよ。残念だね。」

ビール自体は消滅していた訳ではなく、クルンバッハの醸造所に醸造を委託し、今では販売部門だけが残っていると言うことだ。
駅の近くにあった醸造所も同様に、今では醸造していないらしい。

「この裏手には配送センターがあるよ。ただトラックが行ったり来たりしているだけだが、醸造所があった頃の活気だけは何となく感じられるよ」

Coburg市内に醸造所は無くなっても、やはりこの街のビールとして市民に愛されているのだろう。「Coburger Pils」と書かれたトラックからケースに入った瓶ビールはもちろん、様々な大きさのビール樽が降ろされ、そして配送されていく様子が伺えた。

Coburgのソーセージ

旧市街へ行ってみる。
先ほど合流した運河沿いの自転車道を、今度は直進していくと広場に出た。
市街への入口はSpital門だ。

歩行者天国となっているSpital Gasse(Gasse=横丁)には全国チェーンのデパートをはじめ大小様々な商店が並び、まだ午前中だというのに結構な人通りがある。時々見かけるレストランや居酒屋の看板には、先ほどの「Coburger Pils」が掲げられている事が圧倒的に多く、委託醸造となってもこの街のシンボルであることには変わりないことがわかる。

さて、この街に来たのはビールの為だけではない。ソーセージだ。
ドイツではソーセージの名前に地名が付く。フランクフルト、ミュンヒナー、チューリンガー、ニュルンベルガー・・・・、そしてコーブルガー(Coburger)。コーブルクのソーセージだからコーブルガー。

フランクフルターはじめ全国的にも有名なソーセージは、駅のスタンドでも街の軽食スタンドでもどこでも食べられる。
しかし、Rudiが言うに、コーブルガーはコーブルクでしか食べられないらしい。

「それは不味いからだ!わははは。」

と彼は言うが本当だろうか?
それを確かめたくなった。

門から100m程歩くと街の中心であるPrinz-Albert-Denkmal Marktへ出た。
グルリと囲む様に中世からあるような建物が並び、市庁舎やその地下には昔からのレストランRatskeller(ラーツケラー)はもちろん、現代の定番マクドナルドもある。

広場の入口付近に一台の屋台が停まっている。屋台といっても車で引っ張る形の小さなワゴン車で、その煙突からはモウモウと煙が出ている。ここで焼かれているのがコーブルガー・ソーセージだ。

広場から多方面に伸びている小さな横丁には、おそらくたくさんのソーセージ屋があるのだろう。
古い店先で煙りを立てて客を呼び込む様なソーセージスタンドを探してみたい。

通りかかった人にちょっと声を掛けてみた。
「ニュルンベルクみたいに、歴史的なソーセージの店とかないですか?」
「う〜ん・・・知らないなぁ・・・。」

ちょっと横丁を散策してみると、ツーリストインフォメーションがあった。
ドアを開け、パンフレットをもらうついでに聞いてみた。

「すみません、あなたにとって、個人的にオススメしたいソーセージ屋さんはありますか?」
「ソーセージなら、そこの広場に出ている屋台が一番だよ。何て言っても炭火で焼いているしね。車は新しいけど、ずっと昔からあの場所で屋台で売っているんだ。あれこそがコーブルガー・ソーセージの店だよ。」

なるほど、そういうことか。

「ボフボフボフ・・・・ジュー・・・」
屋台の中から音が聞こえる。
先ほどのインフォメーションのオジサンが言ったとおり、ソーセージを炭火で焼いている。
時々木製の蛇腹式送風機で風を起こし、火を強くしているのだが、その音が「ボフボフボフ」である。
火が強くなるとソーセージがより加熱され、その脂が炭に落ち「ジュー」と煙をたてているのだ。

コーブルガー・ソーセージを注文した。
オバサンの一人がパンに熱々のコーブルガー・ソーセージを挟んで手渡ししてくれた。
まだ音がジュウジュウと鳴っているほど熱い。

「そこのマスタードを好きなだけ掛けていってね」

広場の真ん中にある銅像の台座に腰掛けてソーセージを楽しむ事にした。。
同じようにソーセージを食べている人も何人かいるが、やはり広場にあるマクドナルドのハンバーガーを頬張っている人の数が多いのはちょっと寂しい。

ソーセージは普通、パリっとした皮を頬張るとジュワーと肉汁が出てくるが、コーブルガーはそれほど肉汁が出てこない。
何となくゴワゴワっとした食感がある。
最初は「ん?」と思ったが、近くで食べている人は何の疑問もなく食べている。服装は普通のサラリーマンっぽいので、おそらくこの近くで働いている人なんだろう。
元々コーブルガー・ソーセージはこのような食感らしい。

後でRudiに聞くと、食感はあんなもんだ、という。
「なぜチューリンガーやニュルンベルガーの様に全国区にならなかったか解るか? あんな食感だからだよ。がははは。」
とRudiは笑う。
しかし、全国区ではなくても、街の名を冠したソーセージが存在し、街の中心で古くから営業している屋台があることは素晴らしい事だ。

Coburgのビアガーデンにて

路地をウロウロしながら旧市街を抜けると、広場の横にある木立の中、テーブルが幾つも並び人々がビールを楽しんでいる。
そう、ここは街の公園に夏期限定でオープンするビアガーデンだ。

何軒かの掘っ立て小屋が並んでおり、軒下にメニューが貼ってある。
一軒は軽食専門の売り場で、その隣がビアサーバーのドカンと置かれたお待ちかねのビールカウンターである。
「ビールはこの街の物だよね?」

「もちろん!世界一のコーブルガー・ビールさ!」
ビール係のオジサンは満面で答えてくれた。
「じゃ、その世界一ビールを小さいグラスでちょうだい」

オジサンは手際良くビールをジョッキに注ぎカウンターの上にドンと置いた。
「小さいグラス」は500mlジョッキである。さすがはフランケン。

おそらくオジサンを初めこのビアガーデンでビールを楽しんでいる人の多くは、醸造所が閉鎖されてクルンバッハで委託醸造されているなんて事は知らないだろう。しかし、オリジナルレシピを忠実に引き継いで生産されていることもあり、味は(たぶん)変わらないし、またこの街の周辺にしか売られていないため、閉鎖前のこのビールを取り巻いている環境は変わっていない。

カウンターにはコースターが積み上げられている他、プラスチック製のBier Dach(ビア・ダッハ=ビールの屋根)も置かれている。
これはビールの中に木の葉が落ちてきたり、虫が入って来るのを防ぐためにジョッキやグラスの上に置く蓋である。
醸造所やビアガーデンのシンボルが入ったビア・ダッハを販売している事もあるが、この醸造所ではレンタルしていた。もちろん無料。
まぁ、ビアダッハが無くてもコースターをグラスの上に載せれば良いので、それほど使っている人は多くない。

「ひとつ持って行けよ!」
ビアダッハを眺めていると、カウンタのオジサンが手渡してくれた。
ビールはもう飲んでしまったが、ありがたく頂戴することにした。

次回へ続く>>