概論
「ドイツ人はジャガイモとソーセージしか食べないのか?」
結構多くの日本人が思っている不思議な質問。日本人が毎日寿司を食べないのと同様に、もちろんそんなことは無い。
しかし、ソーセージが安く気軽に食べれる環境が整っているというのは間違いの無い事実で、その気になれば寿司と違って毎日ソーセージを食べることだって、もちろん可能。
そして、毎日ソーセージを食べている人は、もちろんいるだろう。
(それだけって事ではない)
厳格なる「焼く」と「茹でる」
日本でソーセージを食べる場合、それを焼くのか茹でるのかは、ほぼその人の好みに分かれると思うが、これがドイツではキッチリと分かれている。
Bratwurstは焼きソーセージ、Kochwurstは茹ソーセージ。
当研究の所長がドイツに住んで間もなかった頃、そこら辺のスーパーで購入したソーセージを、何の迷いも無しにフライパンで焼いていたら、同居人はビックリ。
「おい、フランクフルターを焼いているのか!?」
所長としては、単に熱が通ればOKな訳だが、彼にはそれが東洋人の奇妙な行為に見えたようだ。
日本独自のソーセージ規格がイメージを創ってしまった
「粗挽きフランク」「タコウインナー」など、日本のソーセージも実に多彩な名前を持っている。
しかし、このフランクフルトの短縮形である「フランク」をドイツで注文した所で絶対に食べる事ができない。
日本農業規格JASでは、ソーセージの直径により、直径20mm未満を「ウィンナーソーセージ」、20mm以上36mm未満を「フランクフルト・ソーセージ」、そして36mm以上を「ボロニア・ソーセージ」と定義している。何とまぁ、それぞれの土地で生まれたソーセージ文化を完全に無視して規格された様であるが、これは日本独自の食文化として、割りきって考えよう。
ちなみに、所長は「粗挽きフランク」が大好き。コンビニでは結構な頻度で購入している。
ドイツにおけるソーセージの総称は「Wurst(ヴルスト)」
ソーセージ全体を指す言葉としてのドイツ語はWurst(ヴルスト)と呼ばれている。そして、それぞれにその発祥となった都市や地方の名前で呼ばれる事が多い。
Türinger(チューリンガー),Nürnberger(ニュルンベルガー),Münchener(ミュンヒナー),Frankfurter(フランクフルター)といったところが一般的。
地方色の強いヴルスト類であるが、これらはおおよそドイツ全土で買うことができる。いわば全国区のヴルスト。
日本語ではやはり英語の「ソーセージ」が一般的であることから、当サイトの本文中では基本的には「ソーセージ」の名を使うことにする。
横浜市神奈川区にあるドイツビアバー兼ソーセージなどの加工肉専門店。
当ビール文化研究所のトークライブを何度か開催させていただいた。
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Türinger(チューリンガー)<Bratwurst/焼>
ドイツソーセージの基本中の基本
どこの街に行ってどこのソーセージ屋へ行ってもほぼ存在するソーセージの王様である。
チューリンガー地方は、Erfurt(エアフルト)やJena(イエナ)などを中心とした旧東ドイツの地域で、ドイツのほぼ中心に位置する。
この地域のソーセージがなぜここまで普及したのかは不明だが、当研究所としては、15世紀にその製法が確立されていたことと、ドイツの「ど真ん中」という地理的な環境が原因だろうと仮説を立てている。
基本的には焼いた物をパンに挟んで食べる。
パンは主食としての役割もあるが、それ以上に「持ち手」としての役割が大きい。
熱々のソーセージを手で持つのは熱過ぎるし、油でベトベトになるが、パンに挟むことで全てが解決する。持ちやすいし、油はパンが吸い込んでくれる、そしてゴミも最小限。
もちろん、店で座って食べる事もできる。
しっかりと皿に盛られ、付け合せにザウアークラウトやらポテトやらを持って出されることが多い。
Bratwurst(ブラートブルスト=焼きソーセージ)と言うメニューがあると、大体がチューリンガーソーセージ。
友人には、店に入るとメニューも見ずに「Bratwurst!」とそればかり注文する輩が多いが、トータル的に見てドイツ人のソーセージ消費量はやはり多いと思う。
写真左:ザウアークラウトとパンが添えられた一皿。
写真右:焼きジャガイモとパンは添えられた一皿。
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Frankfurter Würstchen(フランクフルター)<Kochwurst/茹>
フランクフルト生まれのソーセージ。
日本語だと直径20mmから36mmのソーセージは全て「フランクフルト」とされてしまうどころか、ソーセージ全体を「フランクフルト」とか省略して「フランク」などと表現するので、日本人にとってのソーセージのイメージその物かもしれない。ドイツでは長い茹でソーセージの事を指す。
駅の売店や街で見かけるソーセージスタンドにある鉄板の上に、ズラリと並んで焼かれているのはおおよそチューリンガーであるが、よく見るとその近くに縦長の保温ケースが置かれていることがある。
この中に入れられているのがフランクフルターである可能性が高い。
マスタードを付けて、パリッとした皮とジュワーと出てくる肉汁を楽しみながら食べる、「茹でソーセージの王様」。
Bockwurst(ボックヴルスト)<Kochwurst/茹>
フランクフルターと同じ様なソーセージであるが、ボックビールを飲む時に食べるソーセージとして19世紀半ばころから存在しているソーセージ。
ボックビールのシーズンは春と秋。
Nürnberger(ニュルンベルガー)<Bratwurst / 焼>
フランケン地方の中心都市のひとつニュルンベルク発祥のソーセージ。
中指ほどの大きさで、店で食べる場合は基本的に6~12本で注文する。
ただしこれはしっかりと着席して食べる店で注文するときの話で、駅構内の売店や、軽食屋(インビス)で買うと、2~3本がパンに挟まって出されることが多い。
なお、友人達とバーベキューをやる時など、チューリンガーばかりだと飽きてくるので、これを持ってくる人がいると非常に喜ばれる。
ニュルンベルガーは基本的に「焼き」だが、実は変形もある。
それが「Sauer Zipfel(ザウアー・ツィップフェル)」と呼ばれる物。
これは茹でたニュルンベルガーにタマネギとビネガーを掛けた物で、サッパリとしており美味い。
フランケン地方の郷土料理のひとつであり、結構あちこちの村で見かけた。
こういった料理を食べるとインパクトがあり面白い。
ただし、この名称については、色々な呼び方があるので、どこでも通じる訳ではないので、ご注意を!
ニュルンベルク市内は、さすがにニュルンベルガーの本場だけあってあちこちに専門店が存在している。なかには数百年前から続く老舗も存在しているから、それらをハシゴするのも面白い。
なお、このソーセージは地理的表示保護制度に認定されている。
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Münchener(ミュンヒナー/ミュンヘナー)<Kochwurst/茹>
Weisswurst(ヴァイスヴルスト=白ソーセージ)とも呼ばれるように、真っ白なソーセージ。
一応、ミュンヘン名物なのでミュンヒナーと呼ばれる事もある。
このソーセージは製造過程で「燻製」をしていないためか、「足が速い」とされており、基本的には午前中のうちでしか出さないことが多い。
写真の様に湯に入って出てくる事が多いので、これ皿に出し皮を剥き、甘いマスタードを付けて食べるのが一般的。
実は、この皮を剥くという作業がなかなか馴染みが無い。知っている人は知っている、知らない人は全く知らない、というのは正にこの事。僕も最初の方は知らずにそのまま食べていた。
その後、友人に教えられて皮を剥くようになった。個人的な意見だが、ちょっと厚めの皮なので、やはり皮は剥いた方が美味しい様な気がする。
ただし、剥き方にはちょっとコツがいる。
まずはソーセージ本体にフォークをブサっと指して皿に固定、皮の端っこにある切れ目にナイフを当てて縦に動かし、クルクルと回しながら綺麗剥く。
なお、最近では真空パック入りの商品が多く出回っているので、午前中でなくても出している店も多い。
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Wienner(ヴィエナー)<Kochwurst / 茹>
オーストリアの首都ウィーンを名乗るソーセージ。
元をただせばハプスブルクの系列であるし、地理的にも近いのでオーストリアと南ドイツは様々な文化交流がある。
店で注文をすると一応皿に載せて出されるが、なんだかとってもシンプルな盛り方。
付け合せにはパンが付いている。
写真では、左上にライ麦系パンのスライスが載せてあるが、場合によってはゼンメルやブロッヒェンと言った丸パンが着く場合もあるようだ。
マスタードはいわゆる「甘い」物ではなく、一般的な西洋マスタード。
人によってはこれをパンに付けて食べるようだ。
一見するとフランクフルトとの違いがよく解らない。
誰か知っていたら、こっそり教えてください。
Curry Wurst(カレーソーセージ)<Brarwurst / 焼>
全国区になりつつある人気者
カレーにソーセージが入っている訳でも、ソーセージがカレー味をしている訳でもなく、焼いたソーセージを輪切りにして、その上にケチャップを掛け、さらにカレー粉をまぶした物。
店によっては、上からソーセージを入れると自動的にソーセージをカットする機械などを導入している。
ベルリン名物とされているが、今や全国のソーセージスタンドなどで食べることが出来る。
左写真は一般的なタイプのカレー・ヴルスト。
紙皿に載せられてパンが添えられる。皿の上にパンを置くとケチャップでベタベタになるため、パンは紙ナプキン等の上に置く必要がある。チューリンガーなどと違い、片手で食べることを前提にしていない。よって、このパンは主食としての役割。
変形タイプがこれ。
僕が住んでいたドルトムントの「Der Tueringer」という店の物。
カレーソーセージにフレンチポテト(フランス語の外来語でドイツでも「ポメスフリット」と言う)、そしてマヨネーズを添えるスタイル。
注文するときは
「Ein Currywuerst und Pommes mit Mayo,Bitte!(カレーソーセージとフライドポテト、マヨネーズ掛けて)」
と言うのだが、観光客が少ない場所柄か、注文のオバチャンは発音にかなりシビアで
「Bitte??(え?何??)」
と真顔で聞き返されること数回。
小心者の僕は思わず自分の希望を曲げて「え~と、ポメス一個!(フレンチポテト1個)」
と注文を変更したこともあるのは良い思い出だ(笑)。
付け合わせにされるのは、フライドポテト以外にもいろいろある。
写真はポテトサラダが添えられた物。
ソーセージに掛けられたケチャップの油っぽさを、ポテトサラダの酸味がさっぱりと和らげてくれるのが良い。
Coburger(コーブルガー)<Bratwurst / 焼>
地方色が強いソーセージのひとつ
フランケン地方の小都市のひとつCoburgという街のソーセージ。
ニュルンベルガーよりも大きめな焼きソーセージで、全国区の人気は無いものの、それなりにフランケン地方では知られた存在。
現地では、あちこちにソーセージスタンドはあるものの、売られているのはほとんどがチューリンガーなどの一般的な物。そこで、観光案内所で聞いてみることにした。
「コーブルガー・ソーセージと言うものを食べたいのだけど、どこで食べられますか?」
そうすると何人か居た職員達は、
「広場に煙を出している屋台があるから、それが一番美味しいコーブルガーだよ」
とニコニコしながら教えてくれた。
そこそこの観光都市であるが、ソーセージを名指しして来る客は珍しいのだろう。
松ボックリを使って火を起こし、モクモクと煙を出している屋台は広場の真ん中にあり直ぐに解った。その中でオバちゃんが一人これまた黙々とソーセージを焼いている。
Krakauer(クラカウアー)<Kochwurst / 茹>
あまりお目に掛からないが、ポーランドの地名であるKrakau(ドイツ語読み、現地表記ではKraków)から来ているソーセージ。
太さはチューリンガーなどと変わらないが、長さが短くその半分位。
実は、盛岡近郊のソーセージ職人さんがこれを作っており、ベアレン醸造所の直営パブで食べたこともある。
ベアレン醸造所へのリンクはこちら