<<前回の続き>
「Kreuzberg→」
やっとこの看板を見つけた。
看板の横にジョッキのマークが書いてあるあたり、さすがフランケンである。
右手に羊の群れを見ながら登るゆるやかな坂道が、森の中に突き刺さっている感じがする。
所々にベンチが置かれた道は緩やかだが確実に登っている。普段の運動不足が祟ったのか、汗が噴き出しTシャツはびしょ濡れになった。
暫く走ると視界が開けた。谷の向こう側には小高い丘が続き、白いテレビ塔が見える。
手前にある一本の木。開花間近の菜の花畑の真ん中にポツンと立つ大樹が何とも存在感を醸し出しているので暫く見とれていると、ひとりの中年男性が声を掛けてきた
「あの木は200年ほど前から立っているらしいよ」
彼の顔はちょっと赤い。
「上にはビアガーデンが3軒あるんだ、みんな美味いぞ!」
「知っていますよ。そこでビールを楽しむためにやってきたんです」
「うひょー!それは凄い!じゃ、存分に楽しんでくれ!」
と男性は坂を駆け下りていった。
■Kreuzbergという丘
この丘にはビアガーデンが3軒あるのだが、ここの主役はビアガーデンではなく教会であることを一応示しておきたい。
Kreuzberg(クロイツベルク)の「Kreuz(クロイツ)」は十字架を意味する言葉で、その十字架のある「Berg(ベルク)=山」という意味。
その十字架というが、この丘のてっぺんある小さな教会。これこそがKreuzbergの主役であり、象徴でもある。
この教会の門前に並ぶようにして3軒の店がある。
ここは醸造所ではないが、先ほど通ってきた集落Hallendorfにある2軒の醸造所と、その隣にある集落Schaidにある醸造所の直営ビアガーデンだ。
■まずはRittmayer Keller
まず一番奥にあるRittmayer Kellerへ。
教会の真下にあり、規模的にも一番大きそうだ。通路に面した小屋には、「ビール」「食事」「ピザ」と窓口が別れており、全てセルフサービスとなっている。
夕方5時を回っているが、平日ということもあり客はまばらである。
スポーツスタイルの自転車でやって来た数人のグループと、マウンテンバイクでやって来た夫婦が別々のテーブルに2組いる。
2杯目のビールを買いに行く。
「中も撮れよ。ポーズはこんな感じか?」
ヘレスを注文した僕に対し、赤いエプロンのサービングスタッフは笑顔でポーズを取ってくれた。大きな木樽の注ぎ口にジョッキを近づけ、ビールを注いでいる仕草をしている。壁に造り付けられた棚には1L入りの陶器ジョッキがズラリと並んでいる。
おお、良い感じだ。パシャパシャ。
「すみませんがビールはSchnitt(シュニット)にしてください」
とビールを注文する際に言葉を添える。
「Schnitt!?」
これは樽の口を空けて、直ぐに閉めることでビールを満杯にせず、半分くらい又はそれ以下にして客に出すことだ。もちろん安い。
大の男がシュニットとは何事か、と言わんばかりに目を大きく見開いて彼は僕の顔を見るが、
「ビアライゼは一日に何杯も飲むからな・・・」
と一瞬にして状況を察してくれた。
ただし、1Lジョッキのシュニットは、量が半分としても500mlあるので「少量」とは言えないのが辛い。
■二軒目はFriedel Keller
ビアガーデンが置かれた状況は横に並ぶ3軒とも同じなのだが、やはりビール好きの一人としては3軒とも回りたい。
しかし、想定外のビアガーデンも訪問したせいか、それほどの時間が無くなっている。よって、この地では3軒のうち2軒を回ることにした。
・・そしたら真ん中のビアガーデンは定休日だった。
Friedel KellerはHallendorfではなく、その小字にあたるSchaidにある小さな醸造所のビールを取り扱っている。このビールは未だ飲んだことは無い。
先ほどのケラーと同様ビールと食事のカウンターが別れており、まずはビールのカウンターへ。
ここは木樽ではなく、樽を冷蔵庫に入れ注ぎ口を出すタイプの物だった。
ヘレスを注文すると、カウンターの上に気になる貼り紙が。
「Spagel Salat(白アスパラのサラダ)あります」
おお、これは食べたいぞ、ということで早速注文。
僕の好きな「Preßsack(プレスザック=野菜がミックスされたソーセージの一種)」もあるではないか。
これも一緒に注文。
「席はどこだい?」
とオジサンが聞いてくる。
「あそこです」
と自分の座っている席を指さすと
「後で届けるよ」。
セルフサービスといっても食事は別で、可能な限り席へ持ってきてくれるらしい。
確かに今日は平日ということもあり、ちょっと暇そうだ。
隣のオジサンとその家族
隣のテーブルに運ばれて来た皿を見て、ビックリした。それはビアガーデンのみならず、ドイツではお馴染みの料理「Haxe(豚の骨付き肉の焼いた物)」であったが、そのデカイこと!
注文したのは2皿。隣のテーブルの4人のうちの男性二人、父親とその息子がそれを注文したらしい。(基本的にフランケンの料理は量が多い)
母親と娘(または息子の彼女?)もそのデカさに笑っている。
「これは典型的なドイツ料理だ!」
父親らしき中年のオジサンは僕の方を向いてウインクをした。
「ビアライゼか。良い土地を選んだね。フランケンこそビール王国だ」
オジサンの言葉に、家族全員が頷いている。
「ところでErlangen(エアランゲン)には行ったかね?」
「Erlangenにはビール祭りがあるんだが、これはミュンヒェンのオクトーバーフェストなんて目じゃ無い。規模は小さいがもっと庶民的で地元民が楽しみにしている祭りなんだよ」
Erlangenに醸造所が、そしてビール祭りがあることは知っていたが、まだ行ったことはない。
しかし、ここでErlangenから来た家族が誇りを持って勧めてくれた事により、グッと興味が湧いてきた。次回のビアライゼでは、このビール祭りに合わせてドイツへ来たいものだ。ひょっとしたら彼等とテラス席で出会う可能性だって充分にある。
「未使用のコースターはあるかい?」
小柄なオジサンが何枚かのコースターを持ってテーブルにやって来た。
どうやらここの主人らしい。
「下の集落Hallerndorfにも、ビアガーデンはあるけど、行ったかい?」
「今日はMemmelsdorfからGeisfeld、Roßdorfを通って来ました。Hallerndorfにももちろん寄りましたよ」
「ウチの醸造所は、Hallerndorfから少し入ったSchaidにある。機会があれば是非寄ってくれ」
この醸造所はその数年後に訪れることになる。
<次回へ続く>>