Hallerndorfのケラー=ドイツビール紀行2006(その8)=

■運河沿いの真っ直ぐな道

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RoßdorfからHirschaidに向かってはずっと下り坂が続く。

坂を下りきった所にはバンベルクからニュルンベルク方面への鉄道が走る。
しばらく線路に平行して走っているとHirschaid駅があった。
駅の構内にある地下道で線路を潜り、無事に反対側に拡がる街並の中を進む。
この集落にある醸造所Brauerei Krausには何度か来たことがあるが、今回の目的は他にあるので残念ながら素通りし、その前に架かる大きな橋を渡る。
この橋の下には川が流れているのが、真っ直ぐの運河。
これがフランケンの産業をずっと支えてきたマイン・ドナウ運河である。

人工的な運河であるから真っ直ぐだ。
両岸に道路が設けられており、自転車で走ったり散歩をしたりと市民に愛されている。

自転車よりも少し早い程度の貨物船が併走する。このまま行けば黒海まで通じているこの運河を、この船は一体どこまで行くのだろう。
そんな疑問を持ちながら、走っていると次の橋へやって来た。
ここで数キロ走った運河と別れ、内陸部へと入っていく。目的地であるHallerndorfはもう少し。

■Hallerndorfにある2軒の醸造所

Hallerndorfの集落は、緩やかな斜面に拡がった小さな集落であるが、何と2軒の醸造所がある。
街の中心近くで地図を確認していると、庭木に水を掛けているオジサンがいる。
(この頃はまだグーグルマップが無かったので、紙の地図を持っていた)
「すみません。この集落の醸造所はどこですか?」

と聞くと僕の後ろを指さし。
「ここだよ」
と一発返事であった。

「ここに一軒。さらに、そこにもう一軒。見えるか?そこだよ、そこ!」
オジサンは身を乗り出して教えてくれ、さらに続けた。

「この集落には、醸造所が経営する最高のビアガーデンがあるんだ。この先に行けば、Kreuzbergへの道順がでているから、それに沿っていけば迷うことはない。本当に素晴らしいところなんだよ」
オジサンは誇らしげに、僕の目を真っ直ぐに見ながら言った。

「そのビアガーデンに行きたくて、ここへ来たのですよ」
と言うと、
「そうか、日本でも有名なのか!それは凄いなぁ!」
と何だか勘違いし始めた。

オジサンの家の前にあるのはBrauerei Littmayer。
1422年創業という老舗だ。夕方からの営業ということでドアが開いていない。
この店のビールは、そのビアガーデンで飲むことが出来るので、ここは執着せずに次へ向かう。

次といってもその醸造所はここからわずか数十m先である。キョロキョロすることもなく歩いて到着。

 

■Hallerndorfの「Brauerei Liberth」潜入

ここも何だか開店前の様子であるが、貫禄のある腹のオジサンが店の前に立っていた。
「こんにちは〜。店はまだ開いていないのですね?」
と言いかけると、先ほど色々と教えてくれたオジサンが後ろの方から、
「おい!彼は日本からビアライゼに来たらしいぞ!丁重に扱えよ!がはははは!」
と大声で叫んでいる。

「はははは!そうかそうか、まぁ、どうぞ」
ちょっと物静かそうなオジサンは、事情が解った、という顔で僕を迎えてくれた。

「今の時間、ここでビールは飲めないが、この先300mほどの所にあるDorfkeller(ドルフケラー)や、さらにKreuzbergにあるKellerでビールが飲めるよ」 木製の樽はほとんど使われていないようで、その代わり、やはりステンレス製の樽が積み上げられている。

「もし時間があるようならば、中を見ていくかい?」

もちろん、おじゃますることにする。

この醸造所も長い歴史を持っている。外観はその貫禄が充分に感じられるが、中に置かれている設備は結構近代的で、ステンレス製の物がほとんどだ。

階段を降りた所が貯蔵庫で、100Lタンクがズラリと並んでいる。以前は丘にあるケラーで貯蔵していたのだが、設備の発展により夏期でもここで貯蔵できるようになった、ということだ。

■Hallerndorfのケラーへ!

Schaid方面に登っていく坂ではなく、住宅地の方へ向かっている道に進む。

この先に今日の目的地であるKreuzbergがあるのだが、その前に寄りたいビアガーデンがあるのだ。

先ほど閉まっていたLittmayerのビールを扱うビアガーデンだが、ここの地下室がまた素晴らしいという情報を掴んでいた。

地下室を持つビアガーデンは、坂の上にある(山に穴を掘るため)。
何本も通っている坂道を間違えた場合、また急坂を登ると言う悲惨な目に遭うので、ちょうど道路工事をしていた体格の良い青年に聞いてみる。
どうやらこの道を登った所に間違いないらしい。
しかし、まだ早いのではないか、と彼の同僚がちょっと離れた所でスコップを担ぎながら言ってきた。時間的には午後3時半過ぎである。
その時、一台のスズキ・ジムニーが坂を登っていく。

「あれだよ、あれ!あの車がビアガーデンの主人の物だ。ラッキーだな、直ぐに開けてもらえよ!」

ちょうど良かった。開店準備のためにご主人がやって来たらしい。

このビアガーデンは一番上に駐車場とトイレがあり、客席は下方向へ雛壇状に拡がっているのだ。山の斜面に造られた小屋の鍵を開け、老夫婦が準備をしている。

駐車場の高さから、一段下がった所にあるのが2階部分の入口。ドアを開き、というか外し、そこに腰の高さほどの板をはめて即席のカウンターが出来た。

壁にはメニューが掲げられているが、基本的には「Brotzeit(ブロートツァイト)」と呼ばれる「切って盛るだけ」の軽食である。
家で仕込んできたらしい大きなタッパーが幾つも運ばれているが、この中にはポテトサラダやザウアークラフト(キャベツの漬け物)が入っているのだろう。

小屋の横の階段を降りていくともうひとつのドアがあった。
ここも2階部分と同じように即席のカウンターが造られている。
オジサンが準備しているのはビール。木の樽に注ぎ口を打ち付けて、台の上にドンと置いた。

なぜ、2階が料理で1階がビールなのか。それはこの斜面という地形が大きく関係している。
写真左:一階のビール売り場
写真右:常連さんの専用ジョッキが、棚の上に置かれている。

この小屋の1階部分からは、真横に向かってトンネルが出来ているのだ。もちろん、このトンネルはどこかに通り抜ける物でもないし、そしてハリーなんて名前が付いている訳でもない。何を隠そう、これはビールを貯蔵するために掘られた横穴なのだ。

1階部分から奥へ入れてもらう。

石枠で型取られた入口があり、そこから奥へと繋がっているトンネルには、ビールの樽がゴロゴロと転がり、ワインやソフトドリンクのケースが並べられている。
ここはまさに数百年前から使われ続ける、現役バリバリの天然冷蔵庫だ。

次回へ続く>>