<<前回の続き>
ヴュルツブルグを離れてバンベルクに戻る。
先日財布を拾った集落Geisfeldにもう一度行くことにする。今日ならば二軒ある醸造所は定休日ではないし、この時間ならばビアガーデンだって開いている。
米軍の駐屯地に差し掛かる頃、Geisfeldを示す案内板が出てきた。前もって地図で確認してあったが、距離的には数キロの道のり。
畑の中の一本道は森の中へと続いているが、一体どこへ消えていくのか。
Geisfeldの集落外れにあるGiess Kellerに到着。
さて、ビールを楽しもう!!
GeisfeldのGiess Keller
先日はまだ閉まっていたBrauerei Giessのビアガーデン「Giess Keller」へ行く。
醸造所の横の路地を進み、馬の放牧地を越えると赤と白のフランケン旗がたなびくビアガーデンが見えてきた。
「P」と書かれた駐車場には、夕方4時過ぎではあるが既に何台もの車と自転車が置かれている。他の客と同様、手すりの様な棒に自転車を巻き付けて階段を降りる。
実は駐車場が丘の頂上であり、客席には階段を下がっていくという変わった構造をしているビアガーデンである。
このカウンターは、2階部分が地上と直結している事が分かる。そして半分は地下に埋もれた1階部分があった。いや、正確に言うと1階部分はほとんど埋もれていて、そこに入るためには更に階段を数段降り、身を屈めてアーチ型の入口を潜らなければならない。
1階部分には板を渡しただけの簡単なカウンターがあり、そこに木の樽が置かれている。そこに大きなドイツ人達が、身を屈めてカウンターに潜り込むような姿勢でビールを買いにくるのだ。
樽からビールを注いでくれた大柄な男性。
強面だが結構優しい人で、興味深そうに写真を撮っている僕を中へ入れてくれた。
今回の旅で何度か訪れたビアガーデンのケラー同様、ここも奥にトンネル状の貯蔵庫があった。
セルフサービスでビールを買い、階段を登るとパッと視界が広がった。
ここはバンベルク市内を一望できるSpezial Kellerにも匹敵するほど美しいビアガーデンだった。
財布を拾ったその後の話
「ジジジジジ・・・」
ドイツで一般的なドアブザーを押すと、
「はいはい、どなた?」
と聞き覚えのあるオバサンの声がした。名乗ろうと思っても、向こうは僕の名前を覚えているか定かではない(日本人の聞き慣れない名前なんて普通覚えていない)ので、
「え〜、あ〜先日財布を拾った日本人です」
と言うと
「あ〜、プレジデントね」
とドアが開いた。そういえば、「Das Bierkultur Institut Präsident(ビール文化研究所 所長)」という名刺を渡した。
「あの後持ち主が来てね・・」
と言いかけて、
「まぁ、入りなさい」
と居間に通された。居間にはオバサンの友人も来ており、二人で午後というか夕方のコーヒータイムを楽しんでいた。
「持ち主がお礼に、と20ユーロを置いていったわよ。これ」
と20ユーロ札を僕に渡してくれた。別に礼が欲しかった訳ではないが、このお金を置いていっても困るだろうから素直にもらう事にする。
「ビールでいいわね?」
とオバサンは台所へ向かおうと腰を上げたが、こちらは先ほど2杯のビールを飲み干したばかりである。
「今、2杯飲んだし、これからBrauerei Krugへ行くので・・・」
と言いかけた所で
「まぁ、小さなジョッキで良いから飲みなさいよ」
と台所へ行ってしまった。
蓋の付いた陶器のジョッキで持ってきてくれたビールは今から行くBrauerei Krugのヘレスである。
オバサンの言う小さなジョッキとは、0.25Lではなく0.5Lのジョッキであった。
ビールと共に牛肉の薫製を!
オバサンの家からBrauerei Krugへは目と鼻の先である。
この醸造所は1820年創業の小さな醸造所で、先ほどのビアガーデンを持つBrauerei Giessよりも50年ほど古い。
特に大きなビアガーデンを持っている訳ではないが、ガストホフの前の道路よりも一段高いテラスに、小さいながらも清潔なビアガーデンを持っており、少人数でゆっくり飲むときなどに気持ち良さそうな雰囲気だ。
実際、2〜3人のグループがのんびりとビールを愉しんでいる。
敷地の奥には、納屋の様な古い木造の建物と家族の住む離れの様な建物が並び、家庭的な醸造所らしい雰囲気を醸し出している。
ここのビールは外へ出荷される事がなく、このガストシュテッテで飲むしか楽しむ方法が無い。そう考えると、何だかありがたいビールだ。
フランケンには、この様に瓶売りさえもしていない醸造所が多くあり、彼等の経営しているガストシュテッテやガストハウスでしか出していない。
決して全てが美味いビールと言うわけではないが、この地でこの様なビールを飲むことが出来る幸せを感じずにはいられない。
ジョッキを持ったオジサンが現れ、カウンターでビールを一杯注いでもらい帰っていった。近所の人が家で楽しむビールを買いに来たのだろう。チビチビとビールを飲みながら、オジサンは路地に消えていった。
「Zwetschgenbammesを食べると良いわよ」
先ほどのオバサンがこの店の名物を薦めてくれた。この地方でよく食べられているブロートツァイトのひとつで、特にこの店自家製の物は最高だと言う。
やはりこういう情報は現地でしか手に入らない。財布を拾ったからこそ手に入った情報であり、礼に貰った20ユーロなんかに比べてもずっと嬉しい。
カウンターでビールをサービングしていたブラウマイスターの奥さんだろうか。彼女が向こうにいるグループに食事を運んでいたので声を掛けて注文をする。
「Zwetschgenbammesをください」
「?・・Nein!(違うよ)、Zwetschgenbammes!」
笑顔で発音を直され、
「そ、それそれZwetschgenbammes!!」
と僕も直された発音を繰り返すが、直した所で正確な発音は出来ないのは当たり前だ。フレンキッシュ(フランケン方言)はとても難しい。
(発音としては「ツヴェチゲンバメス」に近い・・・)
ビアガーデン、隣は何をする人ぞ
「ははは、Zwetschgenbammesか。よく知っているね。ここのは最高だよ!」
隣に座っていた中年夫婦と老人一人の3人組の中年主人が声を掛けてきた。
近くに住むという3人組(おそらく老人はこの男性の父親だろう)は、それぞれジョッキを持ちながらビールを愉しんでいた。何も特別な事はしていない、ただ時間が空いた、ビールが飲みたくなった、よってここへ飲みに来た、それだけである。ビアガーデンに来るのに理由なんていらない。ステキな家族だ。
「そんな所にひとりで座っていないで、こちらへおいでよ」
と彼等は自分達のテーブルで空いている席を指さした。
彼等は気分によりここと先ほど僕が訪れたGiess Kellerを使い分けているそうだ。
「Giess Kellerにも行くと良いよ」
「実はさっき行ったばかりなんです」
「おぉ、それは凄い。バンベルクに滞在しているのかい?」
「いや、Memmelsdorfの・・・」
「あぁ、Drei Kronenか。あそこのビールも素晴らしいね」
「ご存じでしたか」
「もちろん」
そんな会話をしているうちに僕の小さなグラスが空いた。
「一杯おごらせてくれ」
オジサンは僕にそう告げてカウンターへ向かった。ちょっと容量オーバーの気がするが、遠慮無く戴くことにする。
この醸造所の名前はBrauerei Krug。
実は、Krugとは陶器のジョッキの事をさす。
ファイナル・アンサー?
Geisfeldを離れ、Memmelsdorfへと戻る。
もうすぐMemmelsdorfというところでサンセット。時間でいうと午後8時過ぎくらい。
集落内のDrei Kronen。何度も通った店だが今夜はパス。明日は帰国の日だが、また来るだろうと勝手に思いこむ・・・。
(結局5ヶ月後に再訪)
世話になっているルディの家に帰り、ヴァイスビアを飲みながら「クイズ・ミリオネア」を観る。
「Finale Antworte?」(ファイナル・アンサー?)
・・・・・
・・・・・
・・・・・・・
Richtig!(正解!)
どこの国でもやることは同じだ。(笑)
<次回へ続く>>