<<前回の続き>
短い通りに醸造所が3軒!!
フランクフルトから帰国すると言うのに、まだバンベルクに居る。
ここからフランクフルトからは約3時間。便は夜7時過ぎなので、昼過ぎに出れば余裕を持って間に合うという算段だ。
(もしも何か事故があれば乗れなくなるので、この方法はオススメできない)
しばらくお世話になったルディ家族と別れ、ニュルンベルク行の各駅停車に乗る。
ニュルンベルクからはフランクフルトへ向かうICEが何本かあるのだが、まず向かうのはその手前のフォルヒハイム(Forchheim)である。
この場に及んで、まだビール紀行は続いている。
フォルヒハイムは人口3万人ほどの町で、バンベルクとニュルンベルクの中間に位置している。ここに来たのは、なんとこの町に4軒の醸造所があるからだ。
さらに驚く事に、それらの醸造所の3軒は同じ通りにある。
(2006年当時)
ICE(特急)の停まらない駅であるが、そこそこの規模がある。
バンベルクからの列車で通って来た駅は、全て「集落」の駅だが、ここは立派な「都市」の駅である。
しかしフランケンの他の街と同様に駅前は何となく寂しい。
駅を中心に町作りがされる日本と違い、駅は町外れにあることが多く、駅前にタクシー乗り場やバスターミナルがあることがあっても、そこからそのまま商店街が拡がっていると言うことはあまり無い。
駅の売店で街の地図を買う。
無料の地図を観光案内所で貰うというのも手だが、僕は地図マニアではないもののかなりの地図好きなので、可能な限り買うようにしている。やはりしっかりとした寸法で通りの名前が入っている地図は美しい。
地図で一応の位置を確認しながら車が激しく往来している通りを越え、小さな小川を渡った。これがかつてこの街を取り囲んでいた水路らしく川を渡ってから街の景観が一転した。
旧市街ではちょうどイベントが行われていた。
なぜか消防車が何台も並んでいるが、これは周辺の消防局による地域交流のイベントなのだろう。各車には、その所属を示すシンボルマークが書かれている。
制服を着た消防士達が、子供達を運転台や放水台の上に載せては、いろいろと説明をしていた。
大道芸人やソーセージ屋台、フリーマーケットといったお祭りの定番も出店しており、街の人口全てが集まっているのではないかというほどの賑わいだ。
そんな街の広場を抜け、目的のストリート「Sattlertor Strasse」に着いた。
同じ通りのほんの数十mの間に、奥からBrauerei Grief、Brauerei Hebenganz、Bauerei Nederと3軒が軒を並べている。これだけの密集地も珍しい。
その周辺でも様々なイベントが開かれているのだが、この通りはそんな喧噪が聞こえるものの静かさを保っており、外に出されたテーブルでまだ午前中のうちからビールを飲むちょっと強面のオジサン達がいた。
怖いオジサン達の横をすり抜けて・・・
「どれにしましょうか神様の・・・」と小学生の様な決め方をしたら、指は「Brauerei Hebendanz」を示して止まった。まず潜入(?)する醸造所が決定。
強面のオジサン3人組がいるテラス席を抜け、重いドアを開けたら、この辺りの醸造所に多くある、軽く飲む人の空間があった。
手前に大きなテーブルがひとつ、そして奥にはビールのセルフサービススタンドがあり、その横には立ち飲み用の円筒型テーブルが置かれている。
ドアが空くと共にその立ち飲みテーブルでビールを飲んでいる男達の目がギロリとこちらを睨んだ。
捲し上げたTシャツからは、入れ墨が彫られた太い腕が見え、深めに被った帽子からは長髪が垂れており、ピアスで埋め尽くされた耳を隠している。
一瞬ビビったが、さすがにドアを閉めて引き返す訳にはいかないので、そのまま彼等のテーブル前にあるカウンターでビールを買いに行く。
彼等の前を通らないとカウンターには近づけない。さらに、そのうちの一人に退いてもらわないとビールは買えない。カウンターとテーブルが近過ぎるのだ。
ビビリながらも平然とした顔で近づき、自分でも意外な言葉を発した。
「オジサン、これ何飲んでるの?」
僕は驚いた事に、長めの口髭をしているオジサンの飲んでいるビールを指さし、ビールの種類を聞いた。
「ヘレスだ。最高のヘレスだ!」
とオジサンは親指を立ててウインクした。なんだ、普通のオジサンじゃないか。
「オレはピルスだ。今日はピルスが樽に繋がっていないので、瓶だけどな」
他のオジサンはビール瓶を手に持ち、こちらに掲げてきた。樽に繋がっているビールを飲むのが基本だから、僕はヘレスを注文しよう。
注文しようと思い窓口を覗くが誰も居ない。
オジサンの一人が
「お〜い、客だぞ!」
と大声で叫ぶと主人の息子らしき青年がやって来た。
「ヘレスを一杯、シュニット(半分くらいの量)で」
と注文すると、彼と僕の背後にいるオジサン達がほぼ同時に声を上げた
「シュニット?!何故だい?」
こちらはここで飲むだけでなく、この街の醸造所のビールを全て飲む為にやって来た事を告げると何だか納得したようで、一杯のヘレスが出てきた。シュニットと言ってもタイミングが悪かったせいか、ほとんど一杯入っている。(笑)
店を立ち去るその前に・・・
ビールを飲んでいるとオジサン達の興味はこちらのビアライゼになった。
こんな街をよく知っていたな、どこどこのケラーには行ったか、あそこのビールは最悪だ、などと先ほどの強面はどこへ行ったのか、よく話すこと話すこと。
不味い不味いと言いつつ、週に一度は通っているんだから、それはそれで一概に悪口ではないらしい。さて、この店を「シュニット」だけで終わらせ、次の店に行こうと思った。
何せ、この通りだけでも3軒あるし、もう一軒はここから徒歩3分ほどの距離にあるからそのインターバルが短く、体にも負担がかかる。
そろそろ失礼しよう。立ち飲みスペースではなく、店内をちょっと写真を撮らせて貰った後、グラスを返しに行くと、何と目の前にビールが置かれた
「あのお客さんが君へのプレゼントだそうだ」
と青年は言う。
常連席シュタムティッシュに座っている二人のオジサンが陶器のジョッキを掲げて笑っている。彼等は日本からビールを飲みにやって来た僕に、ビールを御馳走してくれたのだ。
次の店へ行こうとしている所だが、ビールを出されて「飲めません」などと言うことはできないので、もう少しこの店にいる覚悟を決め、彼等と飲むことにした。
ついでにメシも食べてしまおう。
「プロージット!」
乾杯してからビールを飲み始める。先ほどの同じヘレスだが今度はシュニットではなく、この醸造所で言う「小ジョッキ」0,5Lである。
<次回へ続く>>