ビールグラスの話

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グラスに欠かせないのは目盛!

ビールを飲むのに欠かせない物が容器である。
樽ビールについては店での提供のため、当然グラスに注がれるが、自宅で飲む缶ビールや瓶ビールであっても、ドイツ人は圧倒的に注ぎ替える人が多い。

それはグラスであったりジョッキであったり。
そして、様々な形のグラスやジョッキが存在しているのだが、これらを体系的に並べてみると、なかなか面白い。
ひとつ共通して言えることは、グラスには「必ず目盛がついている」と言うこと。
提供する側は、必ずこの目盛以上に飲み物を注がねばならない。もしそれよりも少ない場合、客は正々堂々と「少ない!」と言う権利がもちろんある。

Bierglässer(基本形グラス)

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まずは何種類かの定番グラス。
左写真のグラスは0.5L入り、または0.25L入りが存在しており、ドイツ中どこへ行っても見ることが出来る物。
底から少しずつ拡がる形状は、グラスを持つ手にしっかりと馴染み、また天辺部は少し絞っているために泡がこんもりと盛り上がる。

ビールだけでなく、ソフトドリンクに使われることも多い。日本と違いソフトドリンクに氷りを入れてこないことも多いので、コーラなどを飲むと結構ボリュームがある。

ちなみに、ドイツではビールとソフトドリンクは同じ金額。ビールの方が安いことがあるのが、我々日本人の感覚からすると驚き。

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日本でもお馴染みのジョッキ型。
やはりドイツ中で見られる形である。
基本は0.5Lであるが、0.25Lや0.3Lも存在し汎用性も高い。

基本的には円筒形グラスに取っ手が付いている物だが、派生系としてはちょっとずんぐりとしたタイプや、縦長のタイプなども存在している。
流れの関係か、ずんぐり系は直線的な物よりも泡が美しく出来るような気がする。

ちなみに、こちらもソフトドリンクへの使用が一般的で、氷も入れずにそのままコーラやレモネードが入れられる。
もちろん価格はビールとそれほど変わらない。

Pilsnerglässer(ピルスナーグラス)

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主にピルスナーに使われるグラスは、細身で柄が付いた物が多い。
特にピルスナーが多く消費されているのはドイツ北部で、ピルスナーを注文するとこのスタイルの0.25Lまたは0.3Lのグラスで出される。
これが南ドイツになると事情が異なる。

基本的には0.5Lの標準グラスで出される。そして「Klein(クライン=小)」を注文した際にだけ、ピルスナーグラスで出す所が稀にある程度。
元々ピルスナーは、ミュンヘンの醸造家がチェコのピルゼンで技術指導した際に産まれたビールであるが、それがミュンヘンのビールを越えて世界基準になってしまったのは南ドイツの人間からすれば面白くない事実。
今日でも、淡色ビールは「Helles(ヘレス)」がメインでピルスナーをラインナップする醸造所は限られている。

Weißbierglässer(ヴァイスビアグラス)

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Weißbier(ヴァイスビア)またはWeizenbier(ヴァイツェンビア)のグラスはセクシーだ。
細長く下方がくびれているグラスに入れて飲むと、その濁りのグラデーションが楽しめるのだが、その形状は、注ぐ時に瓶の上に被せる様にしてグラスを置き、一気に逆さにして注ぐという手法のための物、との事である。(別途写真を用意します)

ヴァイスビアは他のビールに比べて「瓶」の率が高い。
元々はバイエルンの飲み物なのでドイツ南部では樽から出される事が多いのだが、それ以外のエリアではほとんどがバイエルン産ヴァイスビアの「瓶」が流通している。
濁りを均一させて飲むためには、やはりグラスに注ぐしかないと言うのがドイツ人の共通認識。ビールをラッパ飲みするような人でも、ヴァイスビアに関しては必ずこのグラスに注いで飲む。学生パーティーの席なんかでも、ピルスナーなどはラッパ飲みなのに、このビールを飲む人には必ずグラスが付いてくる。

Altbierglässer(アルトビールグラス)

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デュッセルドルフで飲まれているビールがAlt(アルト)。
この赤褐色の上面発酵ビールは0.2~0.3Lで円筒形のグラスで飲まれる。基本的にはワンサイズ。どこの店へ行っても「Altbier(アルトビア)」としかメニューに書いてない。
醸造所の直営店などで飲むと、写真右の様な店員さんが店内をウロウロしており、空いているグラスを見つけると次々にビールを置いていく。
もう要らない場合は、グラスの上にコースターを置いておけばOK。

Stängen(ケルシュグラス)
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ケルンで飲まれているケルシュのグラスは、Stange(シュタンゲ)と呼ばれる物。複数形はStängen(シュテンゲン)。本来の意味は「棒、竿」の名の通り0.2Lほどの細長いグラスで、デュッセルドルフのそれよりもちょっと細め。
ケルンでも店内を多くのビールを持った店員がウロウロしており、空いたグラスを見つけると片っ端から新しいビール入グラスと交換していく「ワンコビール」。
さて、ケルンの店員は、真ん中に持ち手が付いた盆を持っている。これはその形にちなんで「Kranz(クランツ)」と呼ばれている。本来は「花冠」を意味するのがKranzで、この形はどちらかと言うと「Krone(クローネ=王冠)」に近い様に思えるが、おそらくケルンの方言では王冠もKranzと呼ぶのだろう。(推測)

 

ビールジョッキのいろいろ

Maß/Mass(マース/1Lジョッキ)

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ジョッキの中でも1LジョッキはMass(マース)と呼ばれる。
ミュンヘンオクトーバーフェストの象徴的なジョッキであるため有名で、市内や市周辺のビアガーデンでよく使われるのだが、あまり一般的ではなく、他のエリアではみられない。

研究所としての考えだが、これは集客力の大きいミュンヘン市内のビアガーデンやビアホールにおいて、小さいグラスで提供する場合、お代わりのペースが早くて店員のサービスが追いつかないためではないか。

さて、このマースであるが、あちこちで話を聞くと、実 にいろいろな飲み方(?)があった。
まずは、ビールゆっくり飲む飲み方。飲み方と表現するのはちょっと変だが、冷えたビールが少し温くなるのを待って飲 む、ということ。

小さいグラスでは、ビールがお代わりされるごとに、また温め直しをするのに時間が掛かってしまうのが嫌らしい。
次に、2人でこれ を一杯飲む、という飲み方。
これは逆に「冷たい状態のビール」を何杯も飲みたい、という意見。
0.5Lずつで頼むと割高になるため、1杯をシェアする のだとか。

Krüge(陶器製ジョッキ)

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Krug(クリューク/複数形はKrüge)と呼ばれる陶器製のジョッキは、ずっと昔から使われていたビール容器。最近はガラス製が主流になってきたので、「Steinkrug(シュタインクリューク=石ジョッキ)」と呼ばれる事もある。

何となく前史的な存在かと思われがちだが、今日でも南ドイツを中心に「普通に」使われている。

ビールの色が見えないことから、ガラス製のジョッキやグラスに取って変わられた面もあるが、Krugの持つ最大の特徴はその保冷性。店内でビールをサービングする時はガラス製のグラスで出しても、外のテラス席や特設ビアガーデンなどでは陶器で出す、という店も多い。

あちこちの醸造所に行くと、ついついロゴ入のジョッキを買ったり、またはプレゼントされたりするが、これがまた重く、帰りの荷物の重量にかなり影響するのを忘れない事。

Krüge mit Dach(蓋付きジョッキ)

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ずらりと並んだジョッキ。2枚ともフランケン地方の醸造所で撮影したものだが、その多くに蓋が付いている。

蓋付きジョッキはフランクフルト空港でもお土産用として販売されているために、その知名度は高いが、あれはちょっと装飾が派手過ぎるお土産用のジョッキ。

一般的に、毎日の様に使うジョッキのほとんどは装飾などされておらず、少しペイントがされている程度。
さて、何故蓋が付いているのか?
まず考えられるのは、ビールの気が抜けない様にすること。しかし、元々そんなに炭酸ガスが含まれていないので、これはあまり関係無いのでは、と当研究所では推測している。
そして、仮説を立てているのは、「蜂、蠅対策としての蓋」。
店内には蠅が、テラスやビアガーデンには蜂が多い。特に蜂は麦芽の糖分が大好きなのか、かなりの確率でグラス内に侵入してくる。そして、たまにビールに落ちて溺れている。それらの侵入を防御する物としてこの蓋が有効。