それは山の上にある
1997年に初めてバンベルクを訪れた時、Brauerei Spezialへ行こうと思い、観光案内所で道を聞いた時に聞かれた言葉がこれ。
「Gaststätte oder Keller ?(店舗、それとも地下室?)」
ドイツ語でケラーとは地下室を意味している。
「Zum Keller(じゃ、地下室の方へ)」
と言うと、職員は続けた
「Erst, Sie gehen zu Stephanberg Str. Und Sie können ein Keller auf dem Berg finden(まずシュテファンベルク通りへ行って。そこで山の上に地下室が見えるから) 」
地下室が山の上にある?
一緒にいたドイツ人の友人も「??」状態になった。
丘に続く小径には「Spezial Keller」の文字が見える。そこに広がるのはたくさんのテーブルとビールを手に憩う人達。
そう、このKellerとは「ビアガーデン」を意味している。
そもそもKellerとは何か?
ケラーとは、前述の通り地下室を指す。
ドイツでは、一戸建て集合住宅問わずにこのケラーがあることが多く、そこは倉庫の様な使われ方をしている。
例えば、夏には使わないスキー板を保管し、冬にはしばらく乗らない自転車を保管したりと何ヶ月も動かさない物を置いておくスペースとして重宝されている。
同時に、地下という室温が低く変動が少ない特性から、キロ単位で買ってきたジャガイモやケース単位で買ってきた瓶ビールの保管をしている家庭も少なくない。
農村集落の場合、こうしたケラーが家の敷地だけでなく、集落外れの丘に地下壕を掘っている場合も多い。
写真左:集落の外れに作られたケラー。
写真右:坂の多い街はケラーも多い。
ビールの貯蔵庫もKeller
この低温かつ変動が少ないという特性は、ビールの貯蔵には丁度良い環境でもある。
その昔、まだまともな冷蔵設備がなかった頃はビールの貯蔵にはケラーを使うしかなかった。醸造所の敷地を深く掘り下げて地下室を作り、そこを貯蔵庫にした。
特に、下面発酵のビールは低温での貯蔵が必要なため、必要に応じては冬の間に凍った川や湖の氷を切り出して年間を通じての低温貯蔵環境を維持していた醸造所も多い。
なお、こうして地下に掘られたケラーは特に「Felsen Keller(岩のケラー)」と呼ばれている。
写真左:手掘りのままのケラー。現在は使っておらず醸造資料的に保存している。
写真右:300年以上前のケラーをそのまま使用している醸造所も多くある。
Kellerにビアガーデンを併設
ビールを貯蔵しているケラーから、当然飲む場所へと輸送する必要がある訳だが、「貯蔵庫に来てよ」というのが、まさに「ケラー」をビアガーデンとする発想。
小さな街や集落では、醸造所とケラーの距離がそれほど離れている訳ではないため、客にとっては醸造所へ行くかケラーへ行くかと言うのはそれほど大きな問題ではないのだ。
そして、暖かい季節に外で飲むのは気持ち良いので、人々は好んでケラーへと向かう。
店側はケラーにビールサーバーを置き、ちょっとした料理もできる小屋を建てるなどしてビアガーデンとしての体裁を整える。
店よっては醸造所従業員総出となり、本店側を閉めて「本日の営業はケラーのみ」との張り紙をする事もある。
<(その2)に続く>